お色直し
歴史を調べる、という仕事をしていると、直接古い蔵に入れていただいて、戸主の方でさえあけていない、いや、ひょっとしたらその先代もあけたことのない長持やはさみ箱や箪笥といったものの中を見せていただくことがあります。
長持やはさみ箱や箪笥といったものは嫁入り道具の一部ですが、最近は箪笥以外の言葉は聞きなれないかと思います。長持には布団が、はさみ箱には着物や帯が入れられていたようです。
年月を経た、そうした嫁入り道具の入れ物は、多くは中身を変えていて、私たちがその地域の歴史を知る手がかりとなる、古文書のようなものがぎっしりと入っていることがあります。私たちは、そうしたものが入っている状況も丹念に記録しながら、歴史を紐解く作業を行います。
テレビなどで放映されるような「お宝」だけを掘り出すのとは違って、実は恐竜を土の中から探し出すかのように、どんな小さなものも元の状態がわかるよう、記録しておくのです。「お宝」だけに目が行くようでは、人の営み、というのは理解できません。
そんな歴史作りの裏話はともかくとして。
大正・昭和のものでは、そのままその女性の生涯がそっくり入った、タイムカプセルのような箪笥に出会うこともあります。
お嫁入りに際して、実家が持たせてくれた着物類。
それを大切に、大切に着て、着物と一緒に老いていく。
何年も、何代も、そうした女性が無数にいたことでしょう。
今日のタイトルとした「お色直し」。
披露宴という数時間の間に、何度も席を立ち、ドレスや着物を変える習慣に不思議を感じたことはありませんか。私はずっとわからなかったのですが、つい最近、昔の習慣をお年寄りから聞き取って書きとめたものを読んで、その謎がわかったような気がしました。
式場やホテルで披露宴、というのは最近のお話しで、それまでは家で行っていたものです。
家で行うのですから、時間制限はありません。
「ああ、そうか、なにしろ嫁は二晩ぐらいろくに寝ずだ。」
「本当に昔のお嫁さんは大変ですよ。お吸い物が変わるたびにお色直しするし。」
「普通は江戸づまから引き返しに替え、次にちりめんの重ね着、その次にはな色の
着物に着替え、最後にお茶汲み着物に着替えて、お茶をみんなに汲んでお開きと
なるんですから普通でも四、五回は着替えたでしょうか。」
吸い物が変わる、というのは、文字通り、はまぐり、昆布、鯛の吸い物、というような感じだったそうです。
持ってきただけの着物を着替えた、というのですから、嫁入り道具の披露、という意味もあったのでしょう。
“お茶汲み着物”でお開き、というのですから、
こうした光景をよく見るようになったのも、日本の土壌にあったものなのかもしれません。
参考文献:『田無のむかし話 座談会 その2』(田無市立中央図書館編・1978年)
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